奈良時代には、もう乳製品が天皇家の食卓にのぼっていた。そのころ、日本の庶民はほぼまったく牛乳や乳製品を口にしなかった。いまでは日本の家庭の食卓に当たり前のようにある牛乳だけど、庶民が牛乳や乳製品を口にするのは戦後になってからのことなのだ。
ぼくたち日本人が牛乳を飲み始めたのは、日本の歴史からいって、「つい最近」のことである。
日本は明治になって、髪型から服装、食まで、ありとあらゆる文化が西洋近代に席巻され、牛乳も販売されるようになった。この販売元は、江戸期の旗本や武士たちで、広い屋敷を利用して乳牛を飼ったのだ。まあ脱サラならぬ脱武士をして始めたのが牛乳販売である。
ところがこれが売れない。庶民は端から牛乳を毛嫌いした。福沢諭吉、それに天皇も牛乳の啓蒙につとめたが、それでも庶民にはまったく普及しなかった。
ではなぜ、牛乳を天皇家は食し、庶民は口にしなかったのか?
この事実だけで、日本人にまつわる、実に興味深い謎が浮かび上がる。
その謎を解くヒントが「食性」というものに隠されている。世界各地域の民によって食べるものが異なり、それを消化吸収できる、できないという差異もある。
その謎を解くヒントが「食性」というものに隠されている。世界各地域の民によって食べるものが異なり、それを消化吸収できる、できないという差異もある。
そう、民によって、食性が異なるのだ。それはたとえば、この食べものは、Aという民には滋養に富んだものだが、Bの民には毒になることもある、というケースだ。その傾向がもっとも過激にあらわれたのが、牛乳なのだ。
まあ、くわしくは『天皇家の食卓』の「五の膳・牛乳大論争」を読んでいただきたいのだが、この牛乳にまつわる食性によって、天皇家や日本人の出自が俄然クローズアップされるのだ。
天皇家が歴史上早くから乳製品を食したのは、それが身体に「益」になったからで、庶民が口にしなかったのは「害」になったからではないか――。というかなり確度のたかい推理が成り立ち、それは乳糖分解酵素を体内に産生するか否か(あるいはその多少)がキモとなる。
ぼくは以前は牛乳を健康食品だと思い、「低温殺菌」「ノンホモジナイズ」といった牛乳をがぶがぶ水代わりに飲んでいた。ところが、この「食性の事実」に遭遇して以来、牛乳を飲むことはなくなった。
完全に乳製品を断っているわけではなく、チーズやケーキなどの菓子類などは食する。乳製品はぼくにとって健康食品ではなく嗜好品だ。なぜなら、すくなくとも多くの日本人の食性に乳製品は適さない、という認識があるからだ。
この牛乳と食性について教えられたのが、島田彰夫(元宮崎大学名誉教授)の『食と健康を地理からみると―地域・食性・食文化』『動物としてのヒトを見つめる―衛生学・文化人類学そして生活学へ』等の著書である。この本でぼくは、食性と地域の民との関係にめざめたのだ。
さて、牛乳は「益」か「害」か――。
多くの食品にあって、専門家のあいだで、この牛乳ほど賛否が分かれるものはないだろう。ぼくははっきり「否定」の立場だ。なぜそうなのか、訊かれればもう山ほどあるが、ここでは以下の数点にしぼろう。
まず、そう食性の問題だ。たとえば牛乳を飲むとお通じがよくなる、という人がいる。これは便通がよくなったというより、軽度の食中毒をおこしている可能性がたかい。身体が牛乳を食べものとして認知せず、よって消化吸収をやめて身体からいち早く排出するためにおこる症状なのだ。つまりそういう人は、乳糖分解酵素がないか、すくないのだ。
また現代の食生活は「カルシウム不足」だとされ、そのために骨粗鬆症になる人が多いという。そして、その補給にはカルシウムをたっぷりふくんだ牛乳がいいと喧伝される。
だが、この「牛乳カルシウム補給説」は、かなりあやしい。骨粗鬆症は欧米人に多いのだが、その欧米人は日本人よりも多く牛乳を摂取している。
なぜカルシウムを多量にふくんだ牛乳を飲んでいるのに、かれらは骨粗鬆症になることが多いのか。それは牛乳を摂取することで、逆に骨にふくまれる体内のカルシウムを排出してしまうからである。
さらに女性の乳がん、男性の前立腺がんの原因を牛乳と乳製品に挙げる専門家の意見に信憑性をおぼえるからである。
牛乳とは、ほんらい母牛が仔牛のためにあたえるものだ。仔牛は誕生して乳を飲み約2か月で離乳するが、誕生時の40キロから60キロにもなる。たった2か月で20キロも増えるのだが、これは牛乳にふくまれる成長ホルモンが要因となっているという。
そんな急成長をおよぼすホルモンを含有したものを、人が何年、何十年と摂りつづけることによって、乳房や前立腺などの生殖器官にがんを発生させる、というのだ。
これはジェイン・プラント著『乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか 』によって知ったものだ。著者は女性科学者であるが、進行性乳がんになり、乳房の摘出手術を受けながらも転移を繰り返した。
だが、彼女はその科学者としての探究心から、専門外ながらもみずからがんの原因を探り、ついに牛乳がその要因であることを突きとめた。そして、実際に自己の食生活から一切の牛乳や乳製品を排除することで、短い余命を宣告されながらも、その後15年以上再発することなくすごしている。
また市販の牛乳のほとんどは妊娠している牛から搾乳されたもので、この乳には大量の女性ホルモンがふくまれるが、これが人の生殖器官に作用して乳房や前立腺のがんの成長を促進させる、ともいわれている。
以上のことを知ってから、ぼくの周囲の乳がんになった女性に、一切の牛乳と乳製品を摂らないようにすすめている。
さらに、タバコが要因ではないとされる肺腺がんが急増しているが、これも牛乳や乳製品の摂取が原因なのでは、と疑われている。
それと放射能汚染された食品でもっとも危険とされるのが、きのこ、それに牛乳だ。
とくに、子供には健やかな成長を願って、牛乳をよく摂らせるお母さんが多いが、これは放射能汚染だけにかぎっても、やめたほうがいいと思う。子供は放射線への感受性がたかく、毎日のように飲むことが多いものだから、その危険性はすこぶるたかい。
なお、前述したように、専門家で牛乳への賛否は分かれる。この牛乳の人体への影響について、科学的証明がかなり難しいのも事実だ。
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