東電の実権を握るトップはいわずとしれた勝俣恒久代表取締役会長である。あれこれ、この男の人物像に思いを巡らすのだけど、ほとんど闇のなかだった。福島第一原発事故によって数千万人以上を被曝させるという、人類史上未曾有の最悪事故の最高責任者であるにもかかわらず、マスコミの前に姿をほとんど現わさない人物だ。
自宅に帰らずメディアの取材から逃げ回っているのかと思っていたら、なんのことはない自宅にちゃっかり帰宅していたし、メディアのぶら下がり会見(非公式取材というところか)にも応じていたのである。それなのに、なぜテレビや新聞はその取材で得たことを報じないのだろうか。この人物を真っ先にクローズアップしないで、いったいほかにだれがいるのか。(あの「女性占い師」騒動で中島知子に向けたエネルギーの半分でも勝俣に向ければ、日本のマスコミはすこしは信頼されるし、すこしはこの国もまともになるだろう)
大地震と大津波の起こる可能性がきわめて高いこと、それにディーゼル発電設備の欠陥性を指摘され、それを東電も認めていたのに、事故後は「想定外」と言い逃れ、メルトダウンを起こしているのにそれを数か月認めず、損害賠償裁判でフクイチ由来の放射性物質を「無主物」と強弁し、東電社長(西澤俊夫)は電気料金の値上げを「義務、権利」、東電社員が除染作業に参加するのを「ボランティア」と言い放つのは、東電の抜き去りがたい企業体質であり、企業トップの「意思表明」でもあろう。
もしかすると、この勝俣という男は、この事故を「悪かった」と思っていないのでは? さらにそれ以上に、ある種の「確信犯」ではないかとさえ思った。そう類推せざるをえない、これまでの東電の対応ぶりである。そんな折、この勝俣という人物の「素顔」というか「正体」をかいま見る一節に出会った。そして筆者の「もしかすると」が的中したのである。
……東電会長の勝俣さんの自宅前での数々の放言ですね。僕もぶら下がりや夜回りみたいな取材に行きましたが、彼の言葉を耳にするたびに「この人はこれだけの問題起こしておいて、全然悪いと思ってないんだな」と、その強心臓ぶりに驚きました。(大鹿靖明「G2(講談社)スペシャルインタビュー・メルトダウンし続ける東京電力、経済産業相、そしてメディア」http://g2.kodansha.co.jp/279/280/13054/13055.html)
こう語るのは『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社刊)の著者である大鹿靖明氏(朝日新聞社出向社員・アエラ編集部勤務)。このインタビューから、「勝俣その人となり」がおおよそ浮かび上がってくる。つづきをお読みいただこう――。
例えば、ちょっと専門的な話になりますが、原子力損害賠償法(原賠法)というのがある。要するに原発事故が起きたとき、その被害者を救済するための法律なんですが、その3条1項の「ただし書き」で、異常で巨大な天災地変の時にはその事業者の責任を免責するという内容の規定があるんですね。勝俣さんは、2011年の4月から5月ごろにかけて、その規定の適用にものすごく固執していたんです。
でも、弁護士出身の枝野幸男官房長官(当時)が4月末の記者会見で「免責条項が適用されることは法律家の1人として考えられない」と発言した。さらに海江田万里経産相(当時)までもが国会で「(東電の負担に)上限を設けるということは考えておりません」と言い出したんですね。
ところが、勝俣さんは強硬な姿勢を崩さなかった。自宅前で行われる夜回り取材で、記者から「勝俣さん、この原賠法の3条1項の発動は当然要求されるんですか」といったような質問が出ると、勝俣さんは、「青天井なんてあるわけないでしょう」と答えるわけです。要するに、無制限に賠償するつもりなんてない、賠償負担には上限が設けられるべきだと、堂々と言ってるわけですよ。
あるいはつい先日、私が、「会長、発送電分離などの議論をどう思いますか」などと聞くと、「たまに夜回りに来て、でかいこと聞くんじゃないよ」と言われたこともある。で、勝俣さんは彼を取り囲む別の記者のほうに眼を向けて、「こちらの方は毎日来てんだから」とか言うわけです。“こちらの方”って誰かと思ったら、会長の目の前にいるどこかのメディアの若い女性記者なんですね。勝俣さんが「はい、あなた。質問どうぞ」って言うと、彼女は「会長、お体大丈夫ですか」って聞くわけ(笑)。記者がぶら下がり会見で、取材対象者におもねってるんですよ。
私は勝俣会長に「なんで巨大津波が来るという試算をしておきながら対策を講じないできたのですか」と昨年夏に問いただしてみたところ、玄関先で「アカンベー」をされましたけれどね。本当に舌をベーって出して。子供みたいなところもあるおじいさんなんですよね(苦笑)。(同上)
やれやれ、我々はこんな「アカンベー」男に地球の生殺与奪権を握られていたのである。フクイチ4号機の燃料プールが倒壊したりヒビが入って、日本はおろか地球が終わろうとしても、この男は悪びれもせず世界中の人びとに向かってアカンベーをするかもしれない。
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