このインタビューでの斑目の発言には、事故にたいする責任というか、当事者意識すら感じられなかった。
なにか、どこかの原子力の専門家が、事故の技術的問題と官邸の対応を客観的に論評している、といった印象を受けた。
以前、事故直後の斑目の発言を聴いて、この人の自我の未熟さ、要するに子どもっぽさを指摘したことがある。
だが、このインタビューの発言を読むにつれ、それを通り越して、一種のサイコパスではないかと疑った。
自己の行為に責任がとれない、あるいは人の痛みに思いを寄せられない精神的無痛症ではないかと。
そうでなかったら、稀代の悪党としか考えられない。
でなかったら、全国紙にのこのこ出てきて、「私は罪をおぼえるどころか、何もわるいことなどしておりません」という印象をあたえる発言、しかも微笑すらたたえて写真におさまるなんて、できるわけがない。
この記事の冒頭、「原発事故時には政府に技術的助言を与える立場にあったが、的確な助言ができなかったとして非難を浴びた」と斑目を指摘しているが、それだけではなく、そもそもあの事故を引き起こした責任者ではないのか。
原子力安全委員長というのは、まさに原発の「安全」を保守するというのが職責ではないのか。
そもそも原発をふくめ原子力関係施設は、事故があってはならないものだった。
事実3・11以前は、日本では原発の過酷事故は起こらない。たとえ事故が起きても四重五重の防護があって、放射性物質を環境に撒き散らすことなど絶対にないとされていたはずだ。
そして、あってはならない超過酷事故が起き、十数万人が住居を捨て避難を余儀なくされ、東北や関東など、おおよそ四千万人以上が被曝し、ほんらいなら強制避難区域に充当する地域に住み、多くの食べものが汚染され、そして汚染水はこのいまもじゃぶじゃぶと海へ垂れ流されている。
そんな、比喩ではなく、現実として起こった、いや現在も進行中の史上最悪の事故(いや、これは刑事事件だろう)にたいして、この人はなんの痛みももたないように見える。
インタビューのなかで、こんなやりとりがある。
【引用開始】
――それほど悲観的に事態をみていたのなら、早朝にヘリコプターで現場に向かう菅直人首相(当時)に同行し、機内で「水素爆発はない」と話したのはなぜか。
「(斑目)首相から炉心が露出したらどうなるか問われた。水素ができると答えると、爆発が起きるのかと問い返された。そこで格納容器の中は窒素で置換されていて(酸素はないので)爆発は起きませんと答えた。この説明は誤りではない。菅元首相は著書で、私の言葉を聞いて安心したのが『大間違いだった』と書いているが、私の説明に誤りはない。そこで(首相が)安心したことが間違いだった」
【引用終了】
この斑目の発言には、あっけにとられる。
国を代表するであろう原子力の専門家に「爆発はないのか」とたずね、「ない」と聴けば、誰だって安心するだろう。
別に菅の肩をもつわけではないが、通常の意思疎通においては、そういうものではないのか。
ところが、斑目ときたら、間違いは自分ではなく、菅元首相だと言うのだ。
また、こんな発言もある。
【引用開始】
――事故は防げたと思うか。
「防げた。津波が襲来してからではどうしようもないが、設計時の想定を超える状態(設計拡張状態=Design Extension Conditions)で、安全機器が働くかをちゃんと確認し改善していれば、できた。非常用発電機の設置場所とか、1号機の非常用復水器の弁が緊急時に閉まる設計であったとか、災害前に見直していればよかった。それができなかったのは、設計時の想定を超える事故を考えるとなると、設計基準事故(Design Basis Accident)をもとに出した設置許可の取り消しにつながる議論が起きかねない。そこを心配してきたのだろう」
「防げた」というからには、事故時の対策が不十分であることを事前に想定していたわけだ。
「そこを心配してきたのだろう」って、誰が心配したのか?
おそらく東電、経産省、原子力ムラあたりのことだろうが、そこに気を配るよりも、自己の原子力安全委員長という職責に真に忠実であれば、「防げた」という断言しているわけだから、それを実行していれば、防げた可能性があるのだ。
また、首都圏住民の避難も検討された「最悪のシナリオ」とよばれる「高圧溶融物放出」を斑目も想定していたという。
テレビで官房長官が「ただちに危険ではない」と発言したその裏では、最悪のシナリオが官邸で議論されており、そのことを当時の原子力安全委員長も認めたのである。
ところで、斑目の肩書が「東京大学名誉教授」とあることにちょっと驚いた。
ほう、「名誉教授」かい。
東大は司直が真っ当な仕事をすれば、とっくにお縄になっていたであろう御仁に「名誉」を冠するのである。
もしかして「不」を脱字しているのかな。
そう「不名誉教授」と……。
(引用参考資料『日本経済新聞』2014年1月10日「斑目氏、3年目の証言「あり得た、フクシマ最悪の筋書き」編集委員 滝順一」
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