2018年2月5日月曜日

伊藤美誠の〝ミマパンチ〟が有効なのはなぜか


伊藤美誠の強さはハイブリッドにある




伊藤美誠と張本智和に共通しているのは、前陣でライジングで強打・強ドライブし、タイミングが速いことだ。異なるのは、伊藤は奔放で、張本は基本に忠実なこと。伊藤の卓球はジャズのようなアドリブの即興演奏、張本は指揮者のタクトに的確に応えるクラシック交響楽というか。



張本は、こういう卓球ができればいいという理想的な卓球をリアルに実現してみせることにある。張本の指導者はかなりハイレベルな卓球技術観があり、張本はその指導者の教示を信頼し、またそれを実現できる才能がある。



いっぽう伊藤は、練習や実戦で意識や意図しないで得た体感を、技術的な武器にすることができる。その顕れが、あの〝ミマパンチ〟だろう。ミマパンチのような打ち方をされると、まず返せない。なぜなら、スイングフォームの「系」がこれまでと違うからだ。



フォアハンドをミマパンチように打つ者は、これまでいなかったから、対戦相手は不意をつかれる。それはタイミングが合わないことを意味する。系の違いとは、タイミングの違いだ。



伊藤がこれまでと系が異なるスイングができるのは、彼女の性格と指導者にあるだろう。伊藤の性格は大胆で奔放だが、あるいはそのように見えるが、ものすごく繊細ではないだろうか。自分の考えや思いを十分に自覚できる、とても賢明な知性がある。メタ認知能力に優れているというか。



日本社会や日本のスポーツ指導者は伊藤のようなタイプにたいして、とかく型にはめたがる傾向がある。もし、伊藤がそんな指導者の手にかかっていたら、伊藤はここまで成長することができなかったのではないか。



彼女の性格を十分に理解し、彼女の才能を活かせる指導者が存在したことで、彼女の才能は開花したのだと思う。ふつうの指導者なら練習中にミマパンチのようなスイングをすると、「ちゃんと打つように」と注意をするはずだ。



もちろん、そういう、ちょっとありえない打ち方には弱点もあるもので、ミマパンチも、予想を超えた深いボールや伸びるボールが来た場合、オーバーミスをする可能性が高い。



オーバーミスといえば、伊藤がフォアサイドのちょっと高いボールを強打する時、オーバーミスを連発することがある。あれは伊藤がインパクトするときラケット面が外に開くためだ。深くて伸びるボール、それに身長の低さによって、オーバーミスが顕著になる。



なぜ面を開いて打つのかというと、おそらくパワーを出したいためだろう。1月の全日本ではその面の開きは相当改善されていたが、まだその傾向というか癖はある。フォアハンド強打するとき、手首で面を外に開かないように意識して、肘を外に少し張るようにすれば面は外には向かない。



でも、あまり伊藤に細かいことを注意しないほうがいいかもしれない。




タイミングとハイブリッド・タクティクス




さて、伊藤の卓球は、これまで卓技研でたびたび説いてきた「ハイブリッド・タクティクス」のリアルバージョンだ。ついに現れたか、という感慨がある。



どこがハイブリッドかといえば、トップスピン(ドライブ)とアタック(強打)の両方を随時使えることだ。



いま日本も世界も、その主流はトップスピン。ラリーになれば、男女ともドライブでトップスピンにしてリターンする。もちろんドライブは優れたテクニックである。前陣でも中陣でも後陣でも、打球点が高くても、低くても、攻撃的な打球にすることができる。近年では、チキータや台上ドライブによって、台から出ない短いボールでも攻撃することができるが、これもドライブ技術の系だ。



だから、これからもドライブは卓球の主要技術であることにはかわりない。ただ、ここのところ、ドライブがそうそう効かなくなってきた。ドライブ一発で抜いたり、決めたりすることが減ってきた。プレイヤーがドライブのボールになれてきたのだ。



それは相手がドライブボールを打つタイミングにもなれてきたことでもある。

相手がドライブを打つ時と、強打する時では、その打つタイミングが異なるし、とうぜんそのボールに対応するタイミングも異なるが、いまではほとんどが、ドライブで打つので、相手がドライブを打つ時のタイミングで対応する。



で、そのタイミングが、ほぼすべてのプレイヤーの感覚に染み込んでいるので、いくら強力なドライブでもタイミングを合わせやすくなり、ドライブの効果が半減したのだ。



ここで卓球にとって決定的なことを述べる。卓球は突き詰めれば「タイミング」なのだ。タイミングを争うゲーム、といってもよい。



スピードも、スピンも、パワーも、そしてコースもすべてタイミングに集約される。スピードがあって、スピンがあって、パワーがあるボールが効果的なのはタイミングがとりにくいからだ。



ただし、そんなボールばかりの一本調子で、しかもコースが限定されれば、次第にその効果は薄れてくるだろう。なぜなら、タイミングが合わせやすくなるため。



そう考えると、これからの卓球はドライブにプラス、違う「系」のタイミングのボールを打つ必要がある、ということに行きつくだろう。(つづく)

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