2012年4月23日月曜日

浪江町の住民が原発への抗議のため腹を刺して自殺をした

【ただちに危険だ! 原発通信】№55


けさ(4月23日)の朝日新聞連載「プロメテウスの罠」は、「根こそぎ奪われた」という見出しである。

この記事は「福島県浪江町では原発事故後、松本英之のほかにもう1人が自殺している。赤宇木(あこうぎ)の男性だ。 男性は昨年11月、避難先から自宅に戻り、包丁で腹を刺して死んだ。58歳だった。遺書はなかった」で始まる。

これでこの地区からふたり目の自殺者である。

親族は、「原発事故さえなければ自殺なんかしなかった」と言う。そしてこの地区の住民は男性の自殺についてこう口にした。

「あれの自殺は、これは最大の抵抗だ。切腹して死んだ思いを、私たちは大切にしなければいけない」 (長老)

「彼の死は原発への抗議だ」(区長)

「人間には、耐えられる限界というものがある。それを考えて、行政も対応していかないといけない」(馬場町長)

この地区の線量は馬場町長いわく「推定年間200ミリシーベルト」。原発は人をそして住空間を殺した。

さて、ぼくたちは割腹自殺した男性の思いを大切にするにはどうすればいいのだろうか。それは原発を即刻やめることだろう。福島に原発がなければ、彼は自殺する必要はなかったのだから。

2012年4月22日日曜日

本日、町会主催の除染ボランティア作業あり。さて、その成果は……

【ただちに危険だ! 原発通信】№54


ぼくは柏市に住んでいる。そう放射能汚染のホットスポットといわれている地域だ。

柏市市長は昨年のフクイチ事故当初はほぼシカトしていたけれど、この地域の汚染の深刻さが明らかになるにつれ、それに住民の突き上げにあって、それなりに積極的に放射線測定や除染に取り組むようになった。幼稚園や保育園、小中高が、さらに公園の除染も始まっている。またここ数日前からは、食べものの測定も市が無料でおこなうようになった(1日10件だけど)。食べものにも不安な市民が多いのか、この担当部署への直通電話はいつかけても話し中だ。

そして本日、わが町会で除染作業があった。作業するのは町会役員。もちろんボランティアである。これも放射能汚染にたいする市民意識の高まりの結果だろう。ぼくはこの4月から町会役員になったので、ぼくも参加した。集まったのは柏市の職員数名と町会役員の合計50名ほど。役員のほとんどがぼくより年上の高齢者。

あらかじめ測定してあった線量の高いところをプラスチックや金属のブラシなどでごしごしこすってセシウムを除去しようというのだ。その線量はおおよそ毎時2.7~0.5マイクロシーベルトぐらい。

除染する前にその箇所を再度計測し、ごしごしやってまた測定する。そしてごしごしやってみた。だが、これがなかなか下がらない。コンクリートとアスファルトのつなぎ目の溝など、泥が溜まっている部分にセシウムが吸着しているために下がらないのだろう。こんな箇所を除染しようとすれば、五寸釘などの細い棒状のもので掻きだすしかないだろう。

でも、こんな細かい作業をしていては、なかなか面的にはひろがらない。それに屋根や雨樋にセシウムが付着しているようなので、また雨が降れば線量は元に戻るだろう。50人が2時間ぐらいごしごしやっても、ほとんど効果は見込めないことがわかった。除染には、かなりのマンパワーと時間、それに長期間をようするものなんだ。

本気で町内の線量を面的に下げようとすれば、町会の住民全員がまず自宅の屋根と雨樋、庭をごしごしやってから周囲の道路をやらないと、はっきりとした除染効果は見込めない。そして、随時計測して線量が上がればまたこの作業を繰り返す必要がある。

本日の結論。「除染は甘くない」

チェルノブイリ周辺の地域が何度も除染をやったがいっこうに成果がでなくてやめたというテレビ放送があったけど、そのことがすこしわかったような気がした。

そうは言っても、除染してすこしでも下がるのなら、ぜったいにやったほういい。問題は子どもたちへの被曝をどれだけ防ぐかである。市の職員に訊くと学校や公園の除染は土を削っているのでそれなりに下がっているようだ。ただ、時間がたつと、また上がるのではという危惧がある、と職員は言ったけど。

さて、こういう除染作業を労賃に換算すれば、各家庭の月額の電気代を軽くオーバーするはずだ。しかも、このごしごしやって出た泥や落葉などの低線量放射性物質は市が一時的に保管するのだが、最終的にどう処理するのだろうか。除染作業費用や処理費用を原発電力原価に加算するといったいどれだけ高くつくのやら。

東電の会長、社長を筆頭に全役員、社員、それにすべての原子力村の村民、推進派のみなさん、一度この除染作業に従事してみるといい。いかに原発という発電プラントが愚かな装置であることか、身をもってしるだろう。

2012年4月17日火曜日

「福島原発事故で遺伝的影響の心配は無用」と書いた朝日新聞高橋真理子編集委員に訊ねる

【ただちに危険だ! 原発通信】№53



けさ(4月17日)の朝日新聞朝刊に「女性と放射線 心配しすぎる必要はない」という見出しが眼にとまった。「編集委員・高橋真理子」という署名と顔写真が入った記事だ。

将来、結婚できないのではないか。そんな不安が消えないと福島の若い女性が言うのを聞くと、いても立ってもいられない気分になる」という書き出しで本文が始まる。

そして、「だが、過去の論文や学術報告を見ると、福島原発事故で遺伝的影響を心配するのは無用と思える」とほぼ断定的に述べ、つぎにその論文や学術報告の例を挙げている。

それは広島・長崎の被曝者調査、子どもの放射線治療、国際放射線防護委員会(ICRP)のネズミによる実験、福島県の調査などだ。これで「遺伝の心配は無用」となるのだろうか? 

いくつもの例を挙げながら、なぜチェルノブイリ原発事故による被曝障害の論文や学術報告にあたらないのか。福島原発事故による被曝条件に近いのは、広島・長崎の被曝者、放射線治療、ネズミによる動物実験よりも、チェルノブイリ原発事故で実際に被曝した人の事例のほうではないか。これは誰もが認めることではないだろうか。

そして、ベラルーシなどチェルノブイリ周辺地域での被曝による健康被害の調査は、地元をはじめ、日本や各国の研究者によってかなり綿密におこなわれている。ネットでちょっと検索してみるだけで、信憑性の高い調査研究報告を眼にすることができる。

なのに、なぜ高橋さん、これらの研究報告をあなたの記事に加えないの? ちなみにつぎのデータ、ネットで読まなかった? 

チェルノブイリ原発事故によるベラルーシでの遺伝的影響」これは京都大学原子炉実験所のホームページにあったものだ。

この研究報告のデータによると、あきらかにチェルノブイリ事故での遺伝的影響は有意であることがわかる。たぶん、高橋さんもこれを見れば、そう認めるしかないだろう。そして、この報告の「まとめ」としてつぎのように結ばれている。

【引用開始】
われわれの調査結果は,ベラルーシの住民において胎児異常の頻度が増加していることを示している.それらは,人工流産胎児の形成障害および新生児の先天性障害として現われている.そうした増加の原因はまだ断定されていない.しかしながら,胎児障害の頻度と,放射能汚染レベルや平均被曝量との間に認められる相関性,ならびに新たな突然変異が寄与する先天性障害の増加といったことは,先天性障害頻度の経年変化において,放射線被曝が何らかの影響を与えていることを示している.
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Lazjuk-J.html
【引用終了】

どうだろう、高橋さん。この「報告」、ネットで見なかった? 記者でも編集委員でも、常識的にこのあたりの情報は収集するものだけど……。

あなたの記事は「公益財団法人 放射線影響協会」のホームページにある「放射線の影響がわかる本」http://www.rea.or.jp/wakaruhon/mokuji.htmlのなかに記載された内容とよく似ているけど、これがネタ元? 

まあ、なにをネタにしようが、それは書く者の自由なんだけど、この「放影協」って「村」というか「御用」の香りがぷんぷんする。ぼくの鼻がおかしいのかな。

あなたの記事の冒頭、「……福島の若い女性が言うのを聞くと、いても立ってもいられない気分になる」とあるが、ぼくはこのあなたの記事を読んで放射線被曝から無防備になって、注意すれば防げた健康被害を受けるかもしれない福島の若い女性のことを想像すると、いても立ってもいられない気分になる。

――放射線被曝から最大限の注意をはらってください。
ぼくは自分の良心にかけて、福島の若い女性にこうよびかけたい。




2012年4月16日月曜日

原発全部停止なら「集団自殺するようなことになる」と、今度は仙谷が国民を恫喝

【ただちに危険だ! 原発通信】№52

きのう枝野が、そしてきょう仙谷(民主党政調会長代行)が国民を恫喝する言辞を吐いた。ネットで産経ニュースを見たら、こんな見出しが眼に飛び込んできた。

民主党の仙谷由人政調会長代行は16日、名古屋市の講演で、原発再稼働問題に関し「止めた場合、経済と生活がどうなるかを考えておかなければ、日本がある意味で集団自殺をするようなことになってしまうのではないか」と述べた。(産経ニュース2012.4.16 16:17)

 おいおい、こんどは「集団自殺」かい。それより、原発が稼働して、国民を放射能被曝で「集団虐殺」させるほうが100万年早いだろ。原発が止まって「集団自殺」するのは、仙谷を筆頭とする原子力村の村民ではないか。

それにしても、いくら大飯原発を再稼働させたいからといって、この程度の脅し文句しか思い浮かばないの? 

こんな原発推進のキャッチコピーなら、ほぼ毎日偽善に満ちたコピーをネットにさらしている、あの元(?)コピーライターにでも依頼すればいいのに。きっと「おいしい原発」なんてキャッチができあがってくるよ。このコピーには「制作料¥20000000」の請求書が添付されているけど(2百万じゃないよ、2千万だよ)。高いって? 竿竹屋と同じ20年前のお値段なんだけど。

この程度のおカネ、原子力村にとってはお安いもんだよね。原発が動けばね……。

「原発がないと何が起きるのか」と国民を恫喝する枝野

【ただちに危険だ! 原発通信】№51


「原発がないと何が起きるのか」ときのうの講演会で枝野が言った。じゃあ、ぼくたちはこう言ってやろう。「原発があると何が起きたのか」と――。

大飯原発3、4号機の再稼働を野田内閣は「妥当」と判断したが、その「政治的判断」をしたひとりである枝野経産相は昨日(15日)徳島市の講演会でこんな発言をした。

「本当に原発がないと何が起きるのか、検証を慎重にやっていただこうと思っている。少なくともこの夏、原発がないと相当いろんなところに無理がくることは理解いただけると思う」(朝日新聞4月16日朝刊)

枝野が述べた「原発がないと何が起きるのか」とは、この夏に電力が不足して経済や市民生活がとんでもないことになるというメッセージである。つまり、彼は原発がないと国民の生活は困ったことになる、とぼくたちを恫喝したわけだ。

大飯原発が稼働しなくても、関西の電力が不足しないことはもう明明白白だ。本当に関西電力が言うように電力が不足するというなら、まず関電の全発電能力、他の電力会社からの融通電力、電力会社以外の自家発電の総電力量、それに今夏不足するという想定日と時間帯にどれくらい足りないか、これらの需給量を明示してみろ。

もし、関電が斑目じゃなかった出鱈目なデータを出せたとしても、たかだか数日の数時間だろう。それくらいの日常生活での節電や会社操業時間の変更は、国民にとって大きな負担にはならない。

枝野にいくら「原発がないと何が起きるのか」と恫喝されようが、ぼくたちはへっちゃらだ。だって、なにも起きないし、困らないんだもの。それより、原発があるほうがよっぽど恐いんだもの。そう、「原発があると何が起きるのか」いや「何が起きたのか」、ぼくたちはもう嫌というほど、その恐ろしさを知ってしまったんだから。

仮に原発が動かなくて、夏の数日の数時間、停電になったとしても、原発が爆発して何千万人が被曝し、13か月以上たっても16万人が避難生活を余儀なくされ、大地や海が「死の放射能」で汚染されるよりも1兆倍、いや1京倍(兆の1万倍)、1垓倍(「京」の1万倍)ましだ。いやいや、そもそも比較なんてできない。

これはぼくだけの意見ではなく、圧倒的多くの人がそう思っていることである。現にけさの朝日新聞(以下のデータは4月15日朝刊)の調査ではこんな結果が出ているのだから。

●野田内閣の大飯原発再稼働妥当との判断に……
賛成28%・反対55%・その他、答えない17%

●政府がきめた暫定的な安全基準を……
信頼する17%・信頼しない70%・その他、答えない13%

●政府や電力会社の電力需給見通しを……
信用する18%・信用しない66%・その他、答えない16%

そして合わせて実施された「内閣支持率」は、「支持する25%」で「支持しない52%」である。

これは昨年12月の31%から長期低落傾向をはっきりと示しており、このポイントの推移は、野田内閣の「収束宣言」から「再稼働」という原発推進政策と軌を一にする。

そんな世論の動向にびびる野田内閣は再稼働の最終決断を逡巡している。それは再稼働することで原子力村の利権に貢献して自分たちもその分け前にあずかるか、それとも再稼働しないで世論の支持率を上げて内閣の延命とつぎの選挙を有利にするのか、という選択のためだ。

それはまた、野田内閣が原子力村の「村民」を代表するものか、日本国の「国民」を代表するものか、の選択でもある。


2012年4月8日日曜日

フクイチ事故で誰も罰せられないのは、裁判官や検察官も原子力ムラのムラビトだから……

【ただちに危険だ! 原発通信】  №50

『週刊金曜日』のバックナンバーを数冊読んでいた。そして2011.10.7日号(特集「原発事故を招いた裁判官の罪」)をぱらぱらめくっていたら、こんなチャートが眼に留まった。それは「原発メーカー・電力会社に天下った司法関係者」というタイトルがあり、以下のような元裁判官や元検察官の氏名と天下り先が記載されていた。

●味村治▶東芝社外監査役(1998年6月~2001年6月)
元最高裁判事、東京高検検事、内閣法制局長官

●野崎幸雄▶北海道電力社外監査役(1998年6月~)
元名古屋高裁長官、仙台高裁長官、弁護士

●清水湛▶東芝社外取締役(2004年~09年)
東京地検検事→法務省民事局長→広島高裁長官→金融庁顧問を経て退職。東京証券取引所自主規制法人理事、弁護士

●小杉丈夫▶東芝社外取締役(2009年~)
元大阪地裁判事補、釧路地裁・家裁判事補

●筧榮一▶東芝社外監査役・取締役(2001年~04年)
東京高検検事長→検事総長を経て退職。東レ監査役、三井生命社外監査役

●上田操▶三菱電機監査役(1949年就任)
元大審院判事(京都帝国大学法学部卒)

●村山弘義▶三菱電機社外監査役・取締役(2000年就任)
元東京高検検事長、弁護士

●田代有嗣▶三菱電機社外監査役(1994年就任)
元東京高検検事、法務省民事局第二課長

●土肥孝治▶関西電力社外監査役(2003年~)
元検事総長、法制審議会委員、大阪高検検事長、弁護士

(『週刊金曜日』2011.10.7日号、三宅勝久「東芝に天下った最高裁判事」15頁)

以上の面々の天下り先をつらつら見ていると、はっと気づいたのだ。そうか、「勝俣がパクられないのは、こういうことだったのか!」ということに。

東京電力福島第一原子力発電所のあれほどの巨大事故があって、なぜ東電幹部や経産省・保安院、原子力安全委員会などの事故関係者が司直の手に委ねられないのかという疑問が解けたのである。

それは裁判官や検察官が原子力ムラのムラビトだったからにほかならない、ということだ。

原発の設置許可処分取り消しを求めた裁判が最高裁まで争われ、その住民側敗訴の判決を出した判事が原発メーカーの東芝に天下っていたことは以前から知っていた。だが、以上に記載したような、これほど多数の司法関係者が原発メーカーや電力会社に天下っていたことは知らなかった。

原発の設置許可取り消し、建設や運転差し止めを求める住民裁判がこれまで14か所で起こされ、その内、住民側勝訴はたった2回。しかもその2回とも上級審で逆転され、結果的にすべの原発裁判は住民敗訴(一部係争中)となっている。

もし、これらの裁判で住民側の意見を真摯に聴き、原発の危険性を裁判官が精査していたら、とうぜん住民側勝訴となり、原発建設はできず、また運転中の原発も止まっていただろう。そうであれば、人類史上未曾有のフクイチ事故は起こらなかった。このような点で、裁判官も原発事故を引き起こした責任と無関係ではいられないだろう。

以上の事故関係者のほかに、原発メーカー、政治家、御用学者、マスコミ、文科省など、原子力の係わる国や業界団体、民間企業など、いわゆる原子力ムラ(原子力マフィアとも呼ばれ、筆者はウルトラブラックと呼んでいる)の構成員に抜け落ちていた機関があった。それは裁判官及び検察官である。そう、彼らも「ムラビト」だったんだ。

2012年4月5日木曜日

「この人(東電勝俣会長)はこれだけの問題起こしておいて、全然悪いと思ってないんだな」

【ただちに危険だ! 原発通信】№49


東電の実権を握るトップはいわずとしれた勝俣恒久代表取締役会長である。あれこれ、この男の人物像に思いを巡らすのだけど、ほとんど闇のなかだった。福島第一原発事故によって数千万人以上を被曝させるという、人類史上未曾有の最悪事故の最高責任者であるにもかかわらず、マスコミの前に姿をほとんど現わさない人物だ。

自宅に帰らずメディアの取材から逃げ回っているのかと思っていたら、なんのことはない自宅にちゃっかり帰宅していたし、メディアのぶら下がり会見(非公式取材というところか)にも応じていたのである。それなのに、なぜテレビや新聞はその取材で得たことを報じないのだろうか。この人物を真っ先にクローズアップしないで、いったいほかにだれがいるのか。(あの「女性占い師」騒動で中島知子に向けたエネルギーの半分でも勝俣に向ければ、日本のマスコミはすこしは信頼されるし、すこしはこの国もまともになるだろう)

大地震と大津波の起こる可能性がきわめて高いこと、それにディーゼル発電設備の欠陥性を指摘され、それを東電も認めていたのに、事故後は「想定外」と言い逃れ、メルトダウンを起こしているのにそれを数か月認めず、損害賠償裁判でフクイチ由来の放射性物質を「無主物」と強弁し、東電社長(西澤俊夫)は電気料金の値上げを「義務、権利」、東電社員が除染作業に参加するのを「ボランティア」と言い放つのは、東電の抜き去りがたい企業体質であり、企業トップの「意思表明」でもあろう。

もしかすると、この勝俣という男は、この事故を「悪かった」と思っていないのでは? さらにそれ以上に、ある種の「確信犯」ではないかとさえ思った。そう類推せざるをえない、これまでの東電の対応ぶりである。そんな折、この勝俣という人物の「素顔」というか「正体」をかいま見る一節に出会った。そして筆者の「もしかすると」が的中したのである。

……東電会長の勝俣さんの自宅前での数々の放言ですね。僕もぶら下がりや夜回りみたいな取材に行きましたが、彼の言葉を耳にするたびに「この人はこれだけの問題起こしておいて、全然悪いと思ってないんだな」と、その強心臓ぶりに驚きました。(大鹿靖明「G2(講談社)スペシャルインタビュー・メルトダウンし続ける東京電力、経済産業相、そしてメディア」http://g2.kodansha.co.jp/279/280/13054/13055.html

こう語るのは『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社刊)の著者である大鹿靖明氏(朝日新聞社出向社員・アエラ編集部勤務)。このインタビューから、「勝俣その人となり」がおおよそ浮かび上がってくる。つづきをお読みいただこう――。

例えば、ちょっと専門的な話になりますが、原子力損害賠償法(原賠法)というのがある。要するに原発事故が起きたとき、その被害者を救済するための法律なんですが、その3条1項の「ただし書き」で、異常で巨大な天災地変の時にはその事業者の責任を免責するという内容の規定があるんですね。勝俣さんは、2011年の4月から5月ごろにかけて、その規定の適用にものすごく固執していたんです。

でも、弁護士出身の枝野幸男官房長官(当時)が4月末の記者会見で「免責条項が適用されることは法律家の1人として考えられない」と発言した。さらに海江田万里経産相(当時)までもが国会で「(東電の負担に)上限を設けるということは考えておりません」と言い出したんですね。

ところが、勝俣さんは強硬な姿勢を崩さなかった。自宅前で行われる夜回り取材で、記者から「勝俣さん、この原賠法の3条1項の発動は当然要求されるんですか」といったような質問が出ると、勝俣さんは、「青天井なんてあるわけないでしょう」と答えるわけです。要するに、無制限に賠償するつもりなんてない、賠償負担には上限が設けられるべきだと、堂々と言ってるわけですよ。

あるいはつい先日、私が、「会長、発送電分離などの議論をどう思いますか」などと聞くと、「たまに夜回りに来て、でかいこと聞くんじゃないよ」と言われたこともある。で、勝俣さんは彼を取り囲む別の記者のほうに眼を向けて、「こちらの方は毎日来てんだから」とか言うわけです。こちらの方って誰かと思ったら、会長の目の前にいるどこかのメディアの若い女性記者なんですね。勝俣さんが「はい、あなた。質問どうぞ」って言うと、彼女は「会長、お体大丈夫ですか」って聞くわけ(笑)。記者がぶら下がり会見で、取材対象者におもねってるんですよ。

私は勝俣会長に「なんで巨大津波が来るという試算をしておきながら対策を講じないできたのですか」と昨年夏に問いただしてみたところ、玄関先で「アカンベー」をされましたけれどね。本当に舌をベーって出して。子供みたいなところもあるおじいさんなんですよね(苦笑)。(同上)

やれやれ、我々はこんな「アカンベー」男に地球の生殺与奪権を握られていたのである。フクイチ4号機の燃料プールが倒壊したりヒビが入って、日本はおろか地球が終わろうとしても、この男は悪びれもせず世界中の人びとに向かってアカンベーをするかもしれない。