2011年9月29日木曜日

【ただちに危険だ! 原発通信】№10

   
福島原発事故のがんリスク予測。
「ICRP298人」「ECRR417000人」
あなた、どっちを信じますか。


けさ(929日)の朝日新聞科学欄に「被曝量低くても発がんリスク」という見出しの記事が掲載された。

記事は今月、「放射線と健康のリスク」というテーマで国際専門家会議が開催(福島市)され、そのときに発表されたものをもとにしている。

その内容は、低線量被ばく(100ミリシーベルト以下)の健康への影響、そして福島県住民の発がんリスク予測だ。

この「福島第一原発事故によるがんリスク予測」(ロシア保健・社会開発省医学放射線研究所のイワノフ副所長による)は、最初の1年間の外部被曝量が5101016165050100100500ミリシーベルトに分類され、その被ばく量に応じた該当する人口数と被ばくによって発生する固形がん件数、そして被ばくによって高まるがんリスクのパーセントが示されている。これは表で掲載されているので詳細は当記事をごらんいただきたい。

この予測リスクをみると、いろいろな疑問点があるが、それは後述するとして、この「予測」で福島県に在住する人はいったいどれだけの人ががんになるのか、表の「被曝によって発生する固形がん」件数をすべて足してみた。

そして算出されたのは298件である。

これは福島在住者に限定したミニマムの発がん予測件数であるとぼくはみる。

つまり福島第一原発の事故によって最低298人の福島在住者をがん患者にするわけである。

もちろんその責任は、東京電力および、原発を推進した政治家、経産省、原子炉メーカー、御用学者、マスメディア、御用タレントなど原子力村の村民、もしくは原子力マフィアと呼ばれる人たち、そしてぼくもふくめた原発の建設、稼働をゆるしてしまった一般の大人たち(たとえ原発に反対であっても)にある。

この数値だけで、もう明確な大量傷害(致死)事件ではないだろうか。原発というたかが電気をつくるプラントを動かしただけで、最低これほどの余命が奪われるのである。

では、この予測の「疑問」について挙げてみたい。それは次のポイントだ。

1. 5ミリ以下の被ばく線量が対象になっていないこと。

2.「固形がん」しか対象になっていないこと。

3.「予測」はICRP(国際放射線防護委員会)の予測モデルを使っていること。

4.「予測」は内部被ばくが対象とされていないこと。

まず1だが、この「予測」対象になった5ミリシーベルト以上の人口数をトータルすると361400人になる。

福島県の人口は約200万(原発事故と震災の影響で311日から約3万弱人減少)なので、残りの約164万人(82%)は対象になっていないことになる。

この164万人の多くが5ミリ以下の被ばく者というか1ミリ以上と推測されるだろう。

そして1ミリ以上の被ばくであってもがんリスクはゼロではない。

これはICRPの見解(被ばくは最終的に1ミリシーベルト以下をめざすとしている)であるし、日本の法律では線量限度を1年間1ミリシーベルト(原子力基本法第20条)としていることからみても「予測」は重大な疑問がある。

次に2だが、「固形がん」とは白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液のがんをのぞいたもの。小児に多いという放射線による白血病が予測から排除されていることは大いに疑問がある。

さらに3だが、これはよく指摘されることだが、ICRPは原子力推進を前提とした機関で、がんなど健康障害への放射線リスクを過小評価している、ということだ。

そして4。この「予測」では外部被ばくとことわっているが、放射線障害のリスクは当然内部被ばくによるものの影響が大きいことを忘れてはならないだろう。

以上4点を挙げてみたが、まだこの「予測」から、疑問点が見つけ出せるかもしれない。もし、疑問点があれば、専門家などくわしい知識をお持ちの方はご指摘いただきたい。

では、ICRP以外の専門家機関は福島原発事故の健康被害についてどんな予測をしているだろうか。

欧州議会に設けられた「欧州放射線リスク委員会(ECRR)」は、「2061年までに福島原発の半径200キロ圏内で417000件のがんが発症する」という予測を出している。

2061年というとこれから50年間での発がん件数である。

なお、発がんしたときの平均余命損失は平均1320年ほどとしている。つまり417000人の余命が平均これだけ奪われる、ということになる。

そして、当然、年齢が低いほど余命損失は長くなる。小児なら50年を越えるだろう。

これほどおびただしい数の健康障害と生命損失のリスクを背負って、日本という国はこれから歩んでいかなくてはならない。果たして、この国は今後、立ちゆくのだろうか。しかも、この国の政権は、まだこの期に及んでも原発を維持し、海外への輸出を目論んでいるのだ。

さてさて、「ICRPの298人」と「ECRRの417000人」との対比をどう見るべきだろうか。

もちろん、予測エリアの福島県と半径200キロ圏内のちがいや、そのほかにも対比するには不適当な条件もあるだろう。

ただ、確実にいえることは、放射線の国際機関としては、日本国政府や御用学者が準じるICRPだけではなく、ECRRのような専門機関も存在するということである。

人の健康と生命の安全を最優先するなら、どちらの予測を信じるのか、そのこたえははっきりしているはずだ。

もし、仮に「ECRRの417000人」を信じ、この予測より圧倒的に低い人数であれば、それはそれで取り越し苦労だったとすればいいだけのことである。

だけど、「ICRPの298人」より圧倒的に多かった場合、これから除染や汚染食物摂取制限、健康管理、避難などの対策が徹底されない恐れがあり、防げたはずの被害を増加させることにつながりかねない。そうなれば、悔やんでも悔やみきれないことになるだろう。

ぼくはECRRの予測数値を前提に、今後の放射線被害対策を実施していくことを願うばかりだ。まったく責任のないおさない子供の健康と生命がかかっているのだから、取り越し苦労してもいいんじゃないかと考えるのだ。

なお、この文は朝日新聞2011929日朝刊の科学欄と同紙同年619日(朝日新聞グローブ「放射線リスクを読み解く」)を参考資料(一部引用)にしている。

じつはこれらの記事には署名があるのだが、これを書いた記者(大岩ゆりさんと梶原みずほさん)には心から言いたいことがある。それは後日ということで、きょうはここまで。

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